塩田千春 つながる私(アイ)
生と繋がりを見つめて
大阪中之島美術館「塩田千春 つながる私(アイ)」鑑賞レポート
目次
展覧会概要
- 会期:2024年9月14日(土)– 12月1日(日)
- 休館日:月曜日、9/17(火)、24(火)、10/15(火)、11/5(火)*9/16(月・祝)、23(月・休)、10/14(月・祝)、11/4(月・休)は開館
- 開場時間:10:00 – 17:00(入場は16:30まで)
- 会場:大阪中之島美術館 5階展示室
- 主催:大阪中之島美術館、MBSテレビ、朝日新聞社
- 協賛:ダイキン工業、DNP大日本印刷、竹中工務店、ハマナカ、リーガロイヤルホテル(大阪)
- 観覧料
- 一般 2000円(前売・団体・平日 1800円)
- 高大生 1500円(前売・団体 1300円)
- 中学生以下 無料
- 当館メンバーシップ会員の無料鑑賞/会員割引 対象
鑑賞記録
大阪中之島美術館で開催された「塩田千春 つながる私(アイ)」を2024年10月22日に鑑賞したレポート。
<鑑賞の目次>
- 大阪中之島美術館への道
- 「塩田千春 つながる私(アイ)」
- エントランス
- 白い部屋
- 映像の部屋
- 赤い部屋
- 屋外
<大阪中之島美術館への道>
美術館へは大阪駅前(梅田駅)からバスに乗って移動した。いくつかのバスが中之島方向に行くが、中之島美術館に一番近い、田蓑橋バス停まで行く大阪市バス53号(船津橋行き)で移動した。
降車した田蓑橋バス停は中之島ダイビルの前にある。
中之島ダイビルは、2009年に竣工したビルで、エントランスホールは吹き抜けで意匠が凝っておりとても素敵だ。1階と2階に食事ができる店舗が入っている。お昼ご飯を食べていなかったのでビル2階の「旧ヤム邸 中之島洋館」でお昼にした。豚キーマカレー、チキンカレーを玄米でいただいた、サラダが付いて1300円也。
こちらのカレーけっこうなボリュームがあり、隣で食していたOLさんが「ご飯少なめにしておくんだった。」と言う声が耳に入った。平日の昼時間という事もあり近隣の勤め人がランチで利用しているようだった。オフィス街の平日昼は食事場所に困る事が無いのが良い。
<「塩田千春 つながる私(アイ)」>
本展は大阪中之島美術館・5階のワンフロアーを使用した展示で、無料のエントランス、白い糸の部屋、映像の部屋、赤い糸の部屋の4つに分かれている。2019年の六本木・森美術館で開催された《塩田千春展:魂がふるえる》と比べると展示面積はコンパクトな展示となっている。
本展は平日限定で通常価格2,000円から1割引の1,800円で鑑賞できる。美術館も繁忙時と閑散時で料金をわけるようになったのだなと時代の流れを感じる。東京では森美術館なども平日料金やオンライン料金で割引がある。
<エントランス>
エントランスは《インターナルライン》という作品で、糸と布とローブで作られた鮮烈な赤の回廊が本展入口まで続く。回廊の先を行く人によって光が遮られ作品の表情が変わり、自身が移動する事により景色が変わる。永遠や同じ瞬間はないと言う事を感じさせる作品。この展示で入口に着く前にかなり満足した。こちらは展を出たあとにも鑑賞できるので、帰り際にもしばし見入った。
<白い部屋>
赤い空間とは対照的な白い部屋は、白糸が張り巡らされ地面には大きな池がある。地上5階のフロアーにこれだけの水を持ち込むのはなかなか大変だろう。
壁には白い糸の間に作家紹介、挨拶などが掲示されており、展示のはじまりを感じさせる。
部屋を進むと糸の隙間をぬうパイプからポタポタ落ちてくる滴が水面を打っている事に気づく、それはまるで点滴のようで、次の部屋で塩田が病のため入院したときの気持ちを語るインタビューと接続しているように感じられた。
次の部屋に入る前に振り向くと、白い部屋の奥にエントランスの赤が見えて朝陽のようだ。
<映像の部屋>
一番大きなスクリーンで上映される《塩田千春クロノロジー》(約30分)にて、塩田が病で入院した際に感じた、物のように処理される自己、医療を施す立場とそれを受けいれる立場のギャップについて語っている内容が印象に残った。
入院は世間からの隔絶と自由の剥奪、同じ境遇の人々との共同生活、およそ日常からかけ離れた世界が待っており、いやが応でも自己を見つめ直す時間と相対する事になる。ある程度の病を経験すると生き方や考え方の変化をするのは間違いない。
この部屋にはもう一点過去の映像作品と平面作品が3点、その奥に今回の展示では数少ない黒の作品《第二の皮膚》がひっそりと展示されている。《第二の皮膚》は見たとおり外側だけの存在、この先でその内面と対峙する事になるとはこのとき思っていなかった。
<赤い部屋>
赤い部屋は、今回の会場でもっとも大きな部屋で、4つのインスタレーション、壁面にビデオインスタレーション、ドローイングなどの平面作品が展示されている。以下、4つのインスタレーションについて感想を記す。
《家から家》、塩田さんの地元である大阪での展示で家を作りたかったと説明に書かれており、いくつかの家があるわけだが、その家は大きさや形はまちまちだが、すべての家に穴が開いており外から内側そしてその向こうまで見られるようになっている。それぞれの家がガチガチに密閉し隔絶を好む現代の家とは異なる景色、閉塞の中で生きている自分を再認識した。午前中に見たアンドリュー・ワイエスのオルソン・ハウスは開かれた家の典型であり、2つの展示の共通を見たようで嬉しくなった。
《つながる輪》、ムービルのような動く作品、ムービルはゆっくりと動く作品が多いが、この作品は時間に追われる現代を象徴するかのように絶え間なく高速で動いている。回る白のドレスと赤い紐のオブジェ、物理的にぶつかる事はないが視覚上は交錯する赤と白、そして影は干渉し絡み合う、コロナ禍で強制的に切断された繋がりを再接続し、説明に記された「永遠に続く円環を作りたかった」との思いがさまざまな形で繋がりとして表現されている。
《多様な現実》、赤い糸につるされた白い紙、紙には多くの人の思いが記されている。読めるところを読んでいくとさまざまな事が記されている。その思いの束は光に照らされて多様な景色となる。これは見る人によってまったく異なる景色を見ているように想像される。多様性とは物事の見え方は人によって異なる事を認識する事なのだと思っている。
《他者の自分》、人体模型と糸によるインスタレーション、この展示は《第二の皮膚》が展示された場所の直線上にあり、人の内と外を対比しているようだ。塩田自身が作品に記した説明で、「これはあなたの臓器と同じと思えますか?」と問いかけてくる。
人はこれら臓器を持っているのは確かだ、しかし、模型の臓器は自己のそれとは同一視しはしづらい。なぜなら、自身の臓器を映像で見るにせよ、取り出された実物を見るにせよ、己の外側から見る、目から脳に入る情報になったとき、それは記号的な他者として脳に処理されているように感じられる。しかし、対象に対する感じかたは人それぞれであり、それを自己として受け取ることも可能であろう。これも多様性の一つだ。
現地説明には、塩田さんの解釈も記されており、それは図録に収録されているのかな?
最後に、《他者の自分》の隣に展示された《だれか、来る》について紹介する。
この作品は、ヨン・フォッセによる戯曲「nokon kjem til å komme」の劇中場面を描いている。
説明書きには「nokon kjem til å komme」を訳した、河合純枝さんと塩田さんは深い親交があり、戯曲「nokon kjem til å komme」についてよく話をしていたとの記述と、河合さんのご病気についても触れられていた。作品と文面からは大切な繋がりがほどけていくことへの無念さが漂っているようだった。
戯曲「だれか、来る」にこの作品と同じシーンを見いだす事ができるのか知りたいので、訳本「だれか、来る」(河合純枝訳・白水社・2023)を読んでみようと思った。
鑑賞を終えてショップを見て回っていると、塩田千春の作品がパッケージに使用された、揖保乃糸、シャトー・ムートン・ロスチャイルドのワインなど、さまざまなグッズがあった。図録は11月上旬販売開始との事で予約を受け付けていた。その後、11月5日くらいに発売になったようだ。
ショップで商品を見ながら、本展示に赤が多いのは、時節柄、大阪万博「いのち輝く未来社会のデザイン(Designing Future Society for Our Lives)」と関連しているのか?みゃくみゃく様の赤い目玉と関連しているのか?と思ったが、ただの杞憂だろう。
<屋外>
展の出口をでて、階段を降りていくと、ジャイアント・トラやんがいる。エスカレータを降りて下に向かっていると、企画の看板が掲示されており、4階では、「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアートコレクション」を塩田千春展とほぼ同じ日程で開催している。
入場券売り場では、両展のセット券などはなく、2つ覧る方は別々にチケットを購入するように案内されていた。自身は東京で鑑賞済みなのでTRIO展はパスした。両展の運営主体の違いのためか共同企画のような物はやれないのかもしれないが、2展で500円引きなど割引があればTRIO展をもう一度覧てもよかったと思った。
Xの大阪中之島美術館が紹介しているが、夕方には西日が差し込む景色が素晴らしいとのこで、夕方まで在館する方は鑑賞していくのもよいだろう。この事実を知ったのは訪問したあとでした。
外に出ると、美術館の庭にSHIPS CATがおり、大阪中之島美術館からデッキで中之島四季の丘公園、国立国際美術館、大阪市立科学館と接続していることを確認した。信号待ちをしなくて良いのは、良い配慮だと感じた。
ギャラリー
使用機材
- HASSELBLAD X2D +XCD 28mmP
- CANON IXY3
- iPhone 12 mini
- RICOH GR21 +FUJIFILM X-tra400
関連リンク
更新履歴
- 2024.11.5